住み慣れた地域で医療・介護

埼玉県北本市の自立支援ハウス「グループリビングアトリエ」(048・540・6755)は、年齢、障害の有無といった枠にとらわれずに生活をともにする住まいだ。理想の在宅介護をめざす医師が開設した。定員一五〜一八人とこぢんまりとしているが、温かく、開放的な雰囲気に包まれている。現在五人の入居者の多くは、近隣に自宅を持ちながら移り住んできた高齢者だ。

もてなしの心忘れず

お年寄りから
こどもまで

心のケアができる場所に

石含寛子(かんじ)さんと妻の禺子(のぶこ)さん夫婦は、当初一週間の滞在予定を一カ月に延ばした。ここでは二部屋に分かれて暮らしている。寛子さんは三年前から認知症の萬子さんをつきっきりで世話してきた。
「ここに来る前は買い物、食事の支度、食事の介助、後片付け…と一回の食事だけで三時間以上の時間を費やしていた。ここでは上げ膳据え膳だから、妻とじっくり向き合える時間はぐっと増えた」とにこやかに語る。
 「男同士で集まって碁でも打ちながら、他愛もない話をしたり、情報交換をしたりできれば、世界が広がると思うんだけどね」
 自分と同じような境遇の男性に入居してもらいたいという。
アトリエは、7〜11畳の個室と、入居者だけが入れるセミパブリックスペース、外部の人にも開かれているパブリックスペースに分かれている。
 パブリックスペースには隣接する小規模多機能ケア「あおそら」の来所者も頻繁に訪れ、スタッフに気さくに声をかけていく。
 運営会社のニューズコーポレーションは、市内で内科・心療内科「ひらお内科クリニック」を開業している平尾良雄さんの在宅介護部門だ。
 三年前のデイサービスセンター「みなみ風」を皮切りに、今年七月には小規模多機能ケア「あおそら」を、十月には「アトリエ」を開設した。
 居室は15室。家賃6万〜8万円のほか、水道光熱費など共益費として月2万円。食費は1日2000円。短期の入居は1週間で21,000円〜28,000円だ。現在の入居者の5人は、1人暮らしが難しくなってきた高齢者だ。住み慣れた地域で医療・介護を受けられる基盤を作ることは、

平尾さんの長年の夢だった。群馬大学医学部在籍時に、在宅医療にかかわったのがきっかけだ。「医師としての視点だけで在宅医療を考えてしまうと、患者さんを入院させるべきか否かだけに注意が向いて、個人の尊厳が軽視される。すべての患者さんが、心の底では在宅介護を望んでいると思います。心のケアができる場所が必要と考えました」
 在宅医療に本当に必要なのは、在宅を望む患者やそれを支える家族双方への「もてなしの心」を忘れないことという。
 所長の宮嶋美貴子さんは、看護師で、医療の視点に偏重する病院での看護のありかたに限界を感じていた時に平尾さんと知り合い、その考え方に共鳴した。他にも、元歯科医で、デイサービス「みなみ風」の顧問、重浦美智さんも応援団の一人だ。アトリエの運営には直接かかわらないが、平尾さんの考え方に共鳴して「みなみ風」のすぐ近くに移り住んだ。80歳を超えているとは思えない若々しさ、オープンな人柄で来所者からの信頼はあつい。平尾さんは、高齢者や障害者だけでなく、さまざまな人を受け入れる自立の家が目標という。
 「例えば、引きこもりの子供を抱える親、子育てがうまくできない母親は限界まで一人で頑張るのですが、結局力尽きて施設や病院にゆだねてしまうパターンが多い。そうなる前にアトリエを思い出してほしい。
 さまざまな境遇の人と触れ合うことによって自分の力で暮らしていけるような力をつけることができるようになる。引きこもりに悩む若者が、お年寄りと触れ合うなかで、介護福祉士の仕事に興味を持ち、社会復帰できるようになることもあるかもしれませんね」と夢は膨らむ。




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