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たしかな手

平成16年4月20日号

患者や家族の生活を守ろうという意思と
柔軟な対応姿勢があれば
在宅医療は難しいことではない

お話/ひらお内科クリニック院長
    ゆうゆうケア・みなみ風代表

平尾良雄先生

医師になったのは40歳のときです。最初は埼玉大学理工学部でバイオなどを研究する生化学を修めました。当時はこの学科の研究機関は東大と埼玉大学だけだったため、同級生の大半は大学院に進学したのですが、私は4年間を楽しく過ごしすぎたため就職に失敗。学習塾『雄飛学園』を始めました。
 ところが、教え子がどんどん医学部に入っていくのです。それでもう一回人生をやり直してみようと思って、学習塾を始めて6年目の32歳で群馬大学の医学部に入学しました。学習塾は夜が仕事なので、昼間の時間がもったいないという気持ちもありました。だからといって、いきなり生徒を放り出すことはできませんから、昼は大学、夜は塾の講師をずっと続け、現在も週に一回教えています。

 精神科志望でしたが、たまたま知り合った教授に心服して臨床検査医学を専攻しました。しかし臨床検査医学は大学病院の中の検査部という中央部門で、患者さんと会うことがありません。やりたかったのは人間の心の研究でしたから、研修の際にさまざまな事情を抱えた人に出会えるリハビリ病院を選びました。この病院では在宅医療を行っていましたので、せっかく患者さんに出会えるならばと、より生活に踏み込める在宅医療に取り組みました。これが私と在宅医療との出会いでした。
 このころ、在宅医療・介護に関して思うことがあり、意見をいくつか発表したのですが、それに目をとめてくれたのが山野美容芸術短期大学です。新設する福祉学科の教師として迎えられました。

挫折と、医師としての遅いスタートが奏功

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在宅医療・介護は『安心の医療』

私が在宅医療・介護に携わっているのは、塾経営、さらには大学在学中から今までに経験したことが土台になっています。
 重病で通院できない、高齢や寝たきりで病院に行けない患者さんがいる場合、ふつう患者さんの代わりに家族が病院に行って病状を報告したり、薬をとりに行かなくてはいけませんが、在宅医療・介護は、医師や看護師が患者さんの寝ている家庭を訪問して診ますので、家族にはわからない異常を早期発見などができる『安心の医療」です。
 しかしもっと大切なのは、医療ではなく看護や介護、つまり生活という観点です。在宅の患者さんができる限りふつうの生活ができるように、また看護や介護をする家族が辛い思いをしないように、そのために最もよい方法を考え、手助けをすることが、在宅医療・介護の医師の使命だと思います。
 

ですから、在宅医療や介護で大切なのは、患者さんに対する医療的な処置はもちろんですが、話を聞く耳を持ち、家族の様子をよく見て、何族の信頼を得て、いかに相談しやすいか、いかに話をよく聞けるかということが医師としての最大の資質ではないかと思っています。
 私は、学習塾で教師をしているときは子供や親たちから、勤務医時代はリハビリ病院や老人保健施設で、患者さんやお年寄り、その家族から相談を受けていました。話を聞くのに慣れていたのです。そして、相談していただけることをとても嬉しいことだと思っていました。
 また、がんのような重病の患者さんであれ、高齢で動けないお年寄りであれ、やはり最大の医療的行為は精神的なケアではないかとも思っています。このことを忘れてしまうと、体の病も治すことはできないのではないでしょうか。

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家族と同じ気持ちになる

現在、在宅で診ている患者さんは約40名です。大半がお年寄りで、数人ががんの患者さんです。こういう環境の中で、引きこもりがちなお年寄りが気楽に集まることのできる通所施設を開設しました。お年寄りが元気になるには外に出て人と出会い、楽しい時間をもつことではないかと思ったからですが、ここでは山野美容芸術短期大学に関わっていることが奏功しました。メニューに化粧やネイルケアやマッサージなど、美容からリラクゼーションまで取り入れることができ、喜ばれています。
 人生の途上で出会った人、出会ったこと、それぞれは点だったのに、いつのまにか繕り集まって太い線になったという気がします。一般人であった時間が長かったのがよかったんです。最初から医師になっていたら、こういう生きかたを選ばなかったんじゃないでしょうか。人生の経験にむだなことはまったくないといいますが、本当ですね。
 在宅医療の医師は苦労ばかりが多くて得るものは少ないでしょうという方がいらっしゃいますが、とんでもないことです。苦労=24時間対応=寝る間もないと思っている人が多いようですが、実際に深夜患者さんの家に駆けつけて対応することは年に数回です。海外旅行は無理でも、国内の研修にも出かけられます。
 それ以上に、患者さんを思うご家族の気持ちに感動したり、患者さん

やご家族との接触の中で喜びと感じるなど、人間的な場で生きていることを実感させられます。とりわけ、自分が求められていると感じるときは医師冥利に尽きます。在宅医療・介護に携わる医師とは何とすばらしい仕事だろうと誇りを持てます。
 私の夢は、こうした、在宅医療・看護のシステムが日本中に広がり、在宅医療を行う医師がたくさん出てき、在宅の患者さんやお年寄りが最後まで安心して幸福に過ごせるようにすることです。家族が辛い思いをせずに、心おきなく看護・介護できるようにすることです。
 在宅医療はそう難しいことではありません。
 家族が在宅で患者さんやお年寄りを看護・介護していく強い意思さえあれば、後は受け皿の医師の気持ちの問題だけです。
 医師は腰軽で、何でも一人でやるという気概があり、ヘルパーやケアマネジャーや薬剤師などと連携がうまくはかれること。さらに、家族との信頼関係が築け、同時に家族の要望を聞く耳を持って柔軟に対応できること、そして医師は中心ではなく縁の下の力持ちだということがわかっていること。たったこれだけです。
 私の場合は、家族の中に混ぜてもらい、家族と同じ気持ちになって聞き、見、考えることが基本です。人間が好きなんでしょうね。

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